光速船・Vectrexに関するコラム

ベクタースキャン方式について

今やオシロスコープ(シンクロスコープ)も波形メモリ保持のためデジタル・ラスタスキャン方式が一般化した時代であり、ベクタースキャンというものを見た事が無い人も多いであろう。

ベクタースキャン方式とはブラウン管に対する描画方式の一つである。TV放送で使われるものはラスタスキャン方式を使用している。

まずはTVで馴染み深いラスタスキャン方式の解説から行おう。話を判りやすくため白黒TVで解説するが。ブラウン管というのは光を発生する部分は一箇所しかない、ブラウン管の裏側についている細長い筒、電子銃がそれである。しかもこの電子銃、一度にブラウン管に照射出来るのはほんの小さな点でしかない。

では何故絵が表示されるのか、この電子銃をまず左上に向けて照射し(照射方向は偏向コイルにより調整する)、表示する部分になったら光線銃の輝度を上げる、無ければ下げる。さらにそのまま右方向へずっと移動させる。右端まで来たら一段分下にずらしまた同じように照射していく。これで一画面を描く、という処理を日本・米国のNTSC規格の場合一秒間に60回行う(面倒かつ誤解しやすいのでインターレスとかの説明は省略)、結果として残像が残って人間の目には「一枚の絵」として映る。この「左→右」の一本の光跡を「走査線(ラスタ)」と呼ぶのでラスタスキャン方式と呼ぶ。

左上から右に一本ずつ絵を描いていく、この一本がいわゆる「走査線」。 最終的にはこのようになる、昔のモニタだと「走査線」の間に隙間があるのでコレも再現してみた。

しかしラスタスキャン方式は初期のコンピュータとは相性があまり良くなかった。というのもラスタスキャンで画面を作る際には予めその分のメモリを用意する必要があるのだが、そのメモリが当時は非常に高価であり、また書き換えも遅かったためである。

そのためメモリ上ではテキスト文字(256種類=1Byteに収まる)の種類だけを書き、画面描画時に人間に読めるようにハードウェア上で変換したり、コンピュータでの描画単位(ピクセル)を荒くしてメモリを少なくする工夫が取られた。昔のTVゲームがやたらドットがガクガクしてたり、テキストで無理やりゲーム画面を作っていたのはこのような理由である。

これに対してベクタースキャン方式というのが存在する。ラスタスキャンではブラウン管に対し光線銃は常に画面全てを常に同じ方向、速度で描画していたが、ベクタースキャンでは光線銃による描画自体をコントロールするのである。すなわち「画面左上から右下に斜めの線を描く」場合は電子銃を実際にそのように動かして描画する。

ラスタスキャンと違って直接「線」を描いていく。予め光線銃を移動して描画開始→移動を行うため、線分の始点と終点は他の部分より照射時間が長い分輝度が高くなる 最終的にはこのようになる、「走査線」は当然ながら存在しない。

この方式は「点と線」しか書けないが(ラスタスキャンと同じ事をやればその限りではない)、描画内容を保持するメモリが極めて少なくなるという事と、ラスタスキャンに必須の「ピクセル」という概念が存在しないので極めて滑らかな線が書ける、というメリットがある。

デメリットとしては、一画面の表示速度が常に一定なラスタスキャンに対して、描画する量が多ければ多いほど一画面の描画に時間がかかってしまう事が挙げられる。また電子銃の操作はコイルで行うので一定周期でコイルヒステリシスのリセットが必要となる(コイル=電磁石であり、片方ばっかりに電気を入力する=磁束をかけると電流=0でもそっちの方向にある程度の磁束が発生するようになるので、反対方向にも電圧をかけて磁束状態をリセットする必要が出てくる、ラスタスキャンはその動作そのものがヒステリシスのリセットを兼ねている)

現在ではメモリも安価で速いので全ピクセルのデータをメモリ上に持つラスタスキャン方式で何の問題もなくなっており、ベクタースキャン方式は事実上淘汰されている。

しかしラスタスキャンではベクタースキャンを完全に再現出来ない。特にVectrexのベクタースキャンは電子銃の出力の強弱を巧みに使うことによりラスタスキャンでは不可能な超高輝度出力を可能としている。

「TEST CART」より「INTENSITY」、一本の線でこれだけ輝度が変化可能。

またベクタースキャン独自の滑らかさもラスタスキャンで再現するのは難しい。単なる「点と線」ではなくて、実際には電子銃の速度によって「Gペンで強弱を付けたような」表情が絵に生まれる。さらにオーバレイをモニタに被せる事により、表示が若干滲む感覚が出てさらに表情が生まれる。

PC上のエミュレータ(DVE V2.00β7)でキャプチャした画面、ゲームは「HEADS UP」、輝度の違いすらよく判らない。 実機のオーバーレイ無し画像、線一つとっても表情が出ている。輝度の違いもはっきりしている。 実機のオーバーレイ有り画像、さらに周辺が滲んで味が出る。

Vectrexには各種エミュレータもあるが、これらの特徴を完全に再現するまでには全く至っていない。実機での表示をエミュレートするのがもっとも難しい機種とも言えるだろう。現在のベクター系エミュレータでは擬似的にフリッカを再現する所まではやっているが、線の表情までを再現したものは著者の知る限り存在しない。

ここまで来てピンと来ない人、夜祭かなんかで「夜空のスモーク等にレーザー光線による描画」を見た事はないか? あれが事実上ベクタースキャンとほぼ同一の論理である。よって見た目もかなり近い。PC用マルチゲームエミュレータ「MAME」では「LaserMAME」というベクタースキャンゲームの出力をレーザーによって行うプロジェクトなんかもある(現在サイトが404の模様)

と、いう訳で光速船/Vectrexについては「エミュレータで遊ぶ」だけじゃ全然体感した事にならないので注意だ、なにせ写真にとってWWWにアップしただけでラスタライズされるし。いや別にゲーム内容が変わる訳でもないのだが、ただ見ているだけで恍惚とした気分になれる、それがベクタースキャンの世界である…。

とか書いたら言いすぎかね? いやそんな事は無いと信じてる、多分。



「光速船」は本当に高かったのか?

「光速船」の話になると当然出てくるのが「あんなの高くて買えなかった」という話、発売元のバンダイでもそれは承知していて、別項の通りレンタル業務なんかがあった模様。

しかし海外ではそこそこ数は出ている。当時世界最大のシェアを誇ったATARI VCS(出荷数1,500万台!)とは桁違いとは言っても少なくとも数十万台は出てるらしい。どういうことかと考えると理屈は簡単、当時の円対ドルレートが今と全然違うのだ。

調べてみたら1983年の円対ドルレートは年平均で238円前後、ちなみに「Vectrex」の米国での定価は$199である。計算してみると…、まぁローカライズ代を考えると妥当な値段だったのかなぁ、と。関税もあったかも知れんし。

ちなみに当時米国でATARI VCSは定価$199(もっとも1993年頃は相当ディスカウントされていた模様)、ATARI共々最大のライバルであった「CollecoVision」なんかは定価$170である。モニタ内蔵であることを考えると実はVectrexってかなり安価だったのだな。実際に開けてみると部品がほとんどアジア製だったりして、中々に壮絶な作りであったりする。

さらにCPUは当初6502を予定していたらしいが、あまりにパフォーマンスが出ないので当時8bitCPUとして最強と言われた6809を載せているのも割安感に拍車をかけている。家庭用TVゲーム機で6809を載せたのは著者の知る限りVectrexのみである。ちなみにロットにもよるけど日立製の6809が載ってるのもある。多分仕入れが安かったんだろう。

「光速船」が発売された1983年の5月にはATARIがアタリ・ジャパンをぶち立てて日本版VCSこと「ATARI2800」を定価24,800円で出している。当時は「もう古い機種だし、ちょっと高いなー」みたいな雰囲気だったが(それでもかっての憧れの機種ではあるので欲しかった)、今考えるとわりと頑張ってたのではなかろうか。

ただし当時の日本では「子供のおもちゃは高級品でも二万円以下」みたいな雰囲気があったような気がしてて、そういった意味ではやっぱり24,800円でも厳しい。ちなみに当時は玩具を扱う量販店なんて無いと思うのでほとんど定価販売がメインかと思う。

そもそも舶来品のTVゲームは昔っからバカ高かったのだ。なにせATARI VCSは前述の通り定価$199だったのだが、ソーナンス氏のサイト「TV GAME 館」(http://www.tv-gamekan.com/)によれば米国での発売同年(1977年)に東洋物産が早くも輸入販売、定価はソフト一本付きで94,800円! 後の1979年にエポック社が「カセットTVゲーム」という名前で輸入販売を始めたが、こちらもソフト一本付きで定価57,300円。1982年にはバンダイがマテル社の「インテリビジョン」を「インテレビジョン」と微妙に名前を変えて販売したがこれも定価$199が日本だと定価49,800円…。とかく洋ゲーム機は高かったのである。

それに比べて日本では1981年にエポックが本体にCPUを内蔵しない豪快な方式ながら「カセットビジョン」を定価13,500円で出して大ヒットした土壌があるから、舶来のバカ高いTVゲームって売れなかったんだよね。

さらにそこで「当時としてはズバ抜けた性能で、極度のコストカットをして、かつ一台売ると赤字になる(利益はソフトで出す、というのは実はATARI VCS時代に確立された商法らしい)」という初代ファミコンが定価14,800円だから。負けて同然と言えば同然。ただ意外にハードのコスト管理という面では日本と米国とであんまし実差はなかったのではないかと思う。

今も昔も全てを握るのは対応ソフト、この事が未だに変わらないというのが深い。

ちなみにソフトはの定価は$34.99位だったらしい、eBayで買った品物を見ると大抵ディスカウント値の「$9.99」とか「$2.99」とか貼ってある事が多いのが哀愁を誘う。これがとんでもない値段で売れるし。

ちなみに「光速船」ソフトは「ハルマゲドン(HARMAGEDON)」「スクランブルウォーズ(SCRAMBLE WARS)」が5,800円で他のが4,800円。5,800円のは外箱とオーバーレイが日本独自になってたのでその分のコストが上乗せされていたものと思われる、それにしても1,000円差はボッタクリかと思うが。



「光速船/Vectrex」の買い方

ここでは「初めて光速船/Vectrexを買う」人向けのネタを書いておく。まずは手に入れないと何も始まらんし。

まず「光速船/Vectrex」はもう生産完了してから20年以上経過しているビンテージゲーム機である。まずそこを念頭に入れておく事。ブラウン管そのものも消耗品だし、何よりコントローラのスティック部分が非常に弱いのが困り者。

頑張れば「新品同様」みたいな代物も見つかるけど、その一方で酷いコンディションの物も決して少なくない。汚れてるのは洗えば綺麗になるのであんまし気にする必要なし。慣れればコントローラの分解清掃もできるし(後述)

さて日本で買うとなると選択肢は簡単な方法の順に「ビンテージゲーム取扱店で購入」「ヤフオクで購入」「eBayで購入」「個人売買で購入」となるだろう。「フリーマーケットやリサイクルショップで購入」とか「玩具店のデッドストックを購入」も可能性はあるが限りなく低いので無視しておく。

機種によっても随分違う、米国版「Vectrex」は1番台数が出ている事で入手は楽だし価格も安い、ただし程度は本当にピンキリ。欧州版「Vectrex」は変圧器を使わないと動かないし、欧州からの輸入コストがバカにならないので日本にはあまり数は入ってきていない、値段は米国版と大差無し。日本版「光速船」は圧倒的に出荷台数が少ない事もあって1番高い、但し現存している物はマニアが大切に保存して良いコンディションである場合が多い。ここ数年で大分相場が落ち着いてきて本体のみなら定価割れで楽に入手できるようになった、ただし箱付だと相変わらず当然のように定価を越すし、未開封品だったら本当に天井知らずである。もっともその「未開封品」が本当に未開封品かどうかは保証しないし、動く保証も全く無い。

共通しているのは「買うなら台湾製でなくて香港製を狙え!」という事、香港製は台湾製の事実上マイナーチェンジ版で安定度が全然違うし。「光速船」は全部香港製っぽいので無視して良いかも。あとは「コントローラがちゃんと正常か」を確認しておく、スティックはちゃんと滑らかに動いてセンターに戻るか、ボタンはちゃんと全部効くか、など。

「どこから買うか」であるが、実際のところ「ビンテージゲーム取扱店」も「ヤフオクで販売している人」も現実にはほとんど「eBayで購入した奴の転売」である。eBayとヤフオクを両方気長にウォッチして、eBayで落札者が日本人だったらしばらく後でヤフオクで出て「あぁ思いっきり値段を乗せていやがる」とか判って面白かったりする。

で、最初の一台からeBay経由で4台、ヤフオク経由で2台買った経験のある著者のオススメは「eBayで購入」…ではなくて実は「ヤフオクで購入」だったりする。転売で値段を上乗せしているのは事実だが、その分リスクは少ないし商品の程度をきちんと書いてある人が多いし、送料もそれなりだし、なにより日本語が普通に通じるしね…。ただソフト付、特に箱付だと価格がバカ高くなる傾向にあるので注意。eBayでのソフトの値段を考えると「付属ソフトが多いほどボッタクリ度は高くなる」と断言できる。

ちなみにeBayの相場は2005年夏の時点で本体のみで$50から、程度の良い箱付だと当時の定価の$199を超えることもしばしばあり。個人的にはあまりに安い奴には手を出すのはオススメ出来ない。アメリカ人の梱包はきちんとしている人も居るけど基本的にズサンな事が多いので(ダンボールに入れただけで送って結果ブラウン管粉砕、という信じがたい例もあり)注意しておくこと。あと新品同様を意味する「MINT」コンディションは眉唾と思っておけ。そもそも「動くだけ」で「Good!」とか「Excelent!」って付ける奴多いから。

あとVectrex自体はどちらかと言うと欧州の方で人気があるので、とんでもない高値がついてる場合は欧州の人である事が多い。入札履歴で入札している人の所属国を見て、欧州だったら勝つのにはそれなりに覚悟すること。

PayPalの登録さえ出来ればeBayの取引は難しいものでもないので、リスクを覚悟というならオススメは断然「eBayで購入」になる、断然安いし。但し本体はでかくて重いので送料はUSからの空輸で$100前後、欧州からだと倍位見ておくこと。船便は安いけど遅いしトラッキング出来ないし荷物の扱いはズサンだしでオススメしない。保険も付けられるなら付ける事。ちなみにeBayやPayPal関係は他に詳しいサイトが一杯あるのでそちらを参照、それ位が出来ないようだったら諦めた方がいい、マジで。

特にソフトをコンプリートしようと思ったらまずeBay以外じゃ不可能に近いだろう。eBayは大抵のアイテムがよほどのレア物でもない限り一ヶ月に一個は出るから、しばらくウォッチしていれば大体の相場も掴める。これだけである意味かなり楽しめる。

ソフトはカートリッジだけならほとんど捨て値で買えてしまう。オーバレイが付くとゲームによってはそれなりの値段になるが、「カートリッジ+オーバレイ」だけであればまだそんなに高くならない。これが「説明書付き」「箱付き」「トレイ付き」「オーバレイ袋付き」と完品に近くなるにつれてどんどん値段が上がっていく。未だに新品デッドストック品も出る。

とりあえず買ってしまったら後は楽しむだけだ。ベクタースキャンの美しさに見惚れるも、当時の大味なゲームに苦笑するも自由。健闘を祈る。



コントローラの分解方法と本体の修理方法

本体は単なるネジ止めなんで簡単に分解可能、但しブラウン管は超高電圧部品なので放電のさせ方を知らないと死亡する可能性も大であることに注意すること。よっぽどの事でもない限り本体の分解は薦めない。

コントローラはネジが見当たらないしハメ込みでもないので多くの人が分解しようとして挫折する事多し。正解は「ボタンのある面のステッカーの下にネジが5本隠されてる」のである。むりやりステッカーを破ってネジを露出させている人も居るので、本体購入の際にはステッカーが傷付いてないか注意する事。

ステッカーを傷つけないで分解するにはステッカーを剥がさないといけないのだが、このステッカーが硬質ステッカーで割れやすい上に接着剤が非常に強力なんで普通に剥がすのはまず不可能。というわけで「予めドライヤーでステッカーを数分炙っておく」のが正解。ステッカーやシールに使ってる接着剤の類は大抵暖めると粘着力が弱まるのである。クルマのステッカーなんかも炎天下に放置させとくと簡単に剥がせるしね。

それでも粘着力は半端じゃないので注意。角を爪楊枝かなんかで起こして一回剥がれ始めたらさらに接着面をドライヤーで炙りながらゆっくり剥がしていくのがコツ。

ステッカーを剥がした状態、憎きネジが5本見える。接着剤の違いか台湾版の方が綺麗に剥がれる気がする、これも台湾版。 開けて裏返した状態、基板上の二つのトリマーはアナログスティックのキャリブレーション用。

あとはネジを5本外せばあっさり分解出来る。分解してスティック部分を見れば「なんで壊れやすいのか」が理解出来るだろう。というか壊れるのが当たり前の設計だし。

せっかく分解したからには徹底的に掃除することをオススメしておく。特にボタンの接点なんかはアルコールで拭いておくと接触不良が治ったりするのでオススメ。あと「TEST CART」を持っていれば基板上のトリマーでアナログスティックのキャリブレーションが可能なのできっちりセンターを出しておくと気分的に良いかも。無かったら触らない方が無難。台湾版だとトリマーが接着剤で中途半端に固定されてる場合あり。

基板のボタン側、ハンダ跡が時代を感じさせる。ここまでバラしたらアルコールで接点を綺麗にしておこう。 これが壊れると評判のアナログスティック部…ってこの構造じゃそりゃ壊れるって、この中心の棒を囲んでるガイドが折れるんですな。ボリューム部分のバネが死ぬ事もあるらしく、この場合はATARI VCSの奴が流用出来るらしいが日本じゃどこで手に入れろと。

本体の修理方法は「普通に電気回路の修理が出来る人」限定、あと「ブラウン管の放電が安全に出来ること」も条件に付け加えておく。とかく命に関わるので自信が無ければ絶対に分解しない事。

基板実装はノンキなもので、探せば「回路図付きのサービスマニュアル」も「故障個所に対する部品チェックマニュアル」なんてものもネットに転がってるので(当然全部英語)、頑張ればある程度の故障は直せるかも。もっとも汎用じゃない部品が飛んでたら部品入手に苦労すると思うけど。



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